SAEC WE-4700 試聴会

今回は日本のアナログ史には欠かせないメーカーのひとつ、SAECの試聴会を開催いたしました。
 SAECと言えば近年PC-TripleCを使用した高級オーディオケーブルが有名ですが、1980年初頭まではダブルナイフエッジ方式のトーンアームが有名で、感度の高いダイナミックな再生能力を持ったアームを作ってきました。今は、中古市場でしかお目に掛れなくなった代物ですが、未だにその魅力は衰えず大事に使用されているSAECファンも多いです。
  昨年8月にアナウンスされ、今年4月に大きな話題となって発売されたトーンアームWE-4700と、その原型となるWE-407/23を最新機種を用いてどの位の音の違いがでるかガチンコ対決と題し試聴会を開催させて頂きました。
 レコード再生をこよなく愛するお客様が多い当店ですが、100万越えするアームの実力を確かめずにはいられず、増してその基となるWE407/23とどの位の違いが出るのか興味が沸くのも当然です。
  勿論、WE407/23の発売当時とは再生機種も様変わりし、夫々の再生能力が一段と向上している中、原型となるア−ムの実力と、それを越したとされるWE-4700の更なるポテンシャルを確かめるべく、手合わせしたのは、レコードプレーヤーにTechnics SP10R/SAEC特注ステンレス製キャビネット、フォノイコライザーにAccuphase C-37、プリアンプAccuphase C-2450、A級パワーアンプ Accuphase A-75、スピーカーにB&W 802D3PEを揃え、ケーブルはオールSAEC製で試聴を開始致します。
  カートリッジはあえて最新カートリッジで情報量が高く当店でも定評のあるカジハララボの輝をSAECジュラルミンシェルにのせ、新旧のアームに付け替えて試聴します。

今回は、代表の北澤氏自らお越しいただいての試聴会となり、SAECの歴史とWE-4700の誕生の経緯や最新の素材PC-TripleC EX導体 を使用したケーブルの試聴など2部構成の内容での試聴会となりました。
 北澤氏は先代の父から会社を受け継ぎ、以前からSAECの看板商品だったトーンアームの復活を考えられていたそうで、いざ開発を始めると資料がほぼ無く、原型のWE407/23を当初分解して開発しようとしたそうですが、全てのパーツに分ける事が出来ず、色々と調べるうちに、当時の職人のアナログ的な発想でのWE407/23の完成度の高さを逆に目の当たりにしたそうです。 何とか製作した初号機もWE407/23との聴き比べで完敗してしまったとおっしゃっていました。
  そこで前作を超えるべく、WE-4700では当初4分割されていたダブルナイフエッジ部も一つの金属を削りだして作るなど、部品点数を減らし共振部を極力減らすなど、様々な改良を加え、せっかく復活させるのであれば世界最高峰のトーンアーム作るべくして、妥協なく自らが納得の行く商品を目指し誕生したのがWE-4700でした。
 
  肝心の音ですが、やはりレコードから引き出す情報量が407/23とは圧倒的に違い、SAECの感度の良いストレートな音色は一緒でしたが、WE-4700では音の空気感や音場の広さが感じられ、繊細な表現もきっちりトレースしていました。
  特に分かりやすかったレコードが、 PINK FLOYDの狂気で、インパクトの強い”TIME”での目覚まし時計の音などが一斉に鳴るあのけたたましい金属音が、407/23では固くうるさく感じるのに対し、WE-4700では響きのある金属音が艶やかにその場に広がり、うるささを感じず、金属の種類が別物に感じるようなくらいの情報量の違いが感じられました。
  十倍の金額の差があるかはさておき、お客様の反応は上々で、対決を待ち望んでいたアナログ再生のベテランから、アームの違いだけで音が違うの?と疑問を持つ初心者まで満足のゆく試聴会になったようです。
  因みに、定番カートリッジのDENON DL-103で 聴き比べも事前に行いましたが多少の違いしか感じられず、カートリッジのポテンシャルの違いなのか判りませんが、現代に設計された高感度のカートリッジがWE-4700には合うようです。
 
  SAECのケーブルは当店でも好評で、あまり癖のないバランスの良い音色が特徴です。基本的に撚り線を使用し、中低域の信号が流れる中心部と高帯域が流れる外周部を中心の周りに囲むように配置したストラダム構造で、上位機種ではPC-TripleC/EXという新導体を採用。PC-TripleCの導体の周りに銀コーティングしお互いの素材を良いとこ取りした素材です。
  当日は未発表だったPC-TripleC/EXを使った新スピーカーケーブルと従来のSTRATOSPHERE SP-10Yとの比較試聴も行い、さらに反応の良い質感の増す表現力の違いを聴かせてくれました。

  新旧対決は全国で初の試みでしたが、自分で言うのもなんですが非常に面白かったです。
改めてオーディオ全盛期に作られたWE407/23の完成度の高さも確認できた事や、そのポテンシャルを超えようとするメーカーの並々ならない努力も痛感し、あるメーカーの技術者も言っていた”毎回0.001%の歪率を向上させる事が非常に大変だ”と話していた事を思い出しました。
 昔と違い、現代の商品はそのわずかの差を詰めるのが難しくなってきており、そこをなんとか超えていくメーカーの努力の積み重ねのお蔭で、それに値する究極の音の恩恵と更なるオーディオの楽しみが受けられるのでしょう。(金額上がりすぎですけどね)。更なるオーディオの向上が楽しみです。
 北澤社長、夫人共々機会がありましたら是非ともまた試聴会宜しくお願いします。

2019/9/23
菊地